2010年3月8日月曜日

リサーチのコモディティ化を防ぐには

The Nielsen Companyの元Global Head of Custom Research、David McCallum氏が"Asia’s Talent Challenge – From Roots to Shoots"という大変興味深いエントリをされていたので、一部妙訳とともにご紹介します。

To me this adoption is crucial for market research to maintain and sustain its overall economic value, i.e. that what makes it worth doing and worth paying for. Specifically, the initiative is needed to:- 

これからのリサーチ業界にとって必要になるのは、その経済的価値、つまり「リサーチャーにとっての働く価値、クライアントにとっての調査を依頼する価値」を維持していくことである。そのために必要なことは、

1. Uphold the maintenance of professional standards
リサーチャーたちのスキルを維持向上させる

2. Keep alive thought leadership to develop, improve, and enhance the industry’s ability to address and help resolve marketing issues, i.e. MR’s economic raison d’être.
マーケティング課題の解決というリサーチ業界の存在理由を維持・向上させていく

3. Prevent MR declining into a commodity service which does not attract the talent needed to thrive (so further hastens any decline.)
リサーチャーにとって働きがいのある職業であるために、リサーチのコモディティ化を防ぐ



翻って、日本の調査業界の現状はどうでしょうか?先日のエントリに、@Experidgeさんから以下のコメントをいただきました。

多くのリサーチャーは木(調査方法・データ)をみて森(マーケティング課題)をみないで調査をしています。マーケティング理解なくして、MRなしです。MRはマーケティング課題発見・解決のためのリサーチですから。


このご指摘には共感する部分が多いです。背景として、日本の調査業界が一部コモディティ化してしまっている現状があると思います。先日Twitterでもツイートした内容ですが、

最近は「早く安くデータを作成すること」が重要視されて、調査会社同士が早さを競ってしまっているために、業界全体が疲弊しているのだと思います。結果としてリサーチャーはデータを読み込むこともできず、サプライヤーから抜け出せないのではないかと。


状態としてはデフレに近く他の市場と同様に二極化していく状況は避けられないと思いますが、マーケティング課題からクライアントと共に考えるパートナーではなく、データを早く安く作成するだけのデータサプライヤーになってしまっているケースが多いのではないでしょうか。

David氏の指摘にある通り(具体的な提言への是非は考えがまとまっていないのでこの場では控えますが)、日本においてもマーケティング・リサーチの価値を高めていくための取り組みが必要だと考えます。

@fujiokat


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2 件のコメント:

株式会社MROCジャパン代表 岸川茂 さんのコメント...

リサーチのコモディティ化を防ぎ、そのビジネス価値を高めることには全く同感です。そのためにはリサーチャーとして何をすべきか?を日々探究することが大切です。。。ところで、「コモディティ」という言葉を聞いて思い出したのは、以前ユニリーバのリサーチ・ディレクター(日本人)にお会いし、前職の製品テストのユニークな方法論を紹介した時、その方が「製品テストは、コモディティ(日用品のようにあまり差がないもの)だと思っていた。」と言われました。何の疑問もなく、いつも同じ方法で繰り返し行っているからです。その言葉が印象的でした。研究としての調査はいろいろな有効な方法を探究し、よりよい結果の発見を追及します。それには多くの時間が必要です。一方、ビジネスとしての調査は、極端に言うと、納期までにとにかく「結果」を出し、売上・利益を上げることが最重要です。いくら良い結果を出しても、納期に遅れたり、赤字を出すような調査はX(バツ)となります。ビジネスとしての調査は、より早く、効率よく、原価を抑えて、つまりあまり時間をかけず調査を右から左へ完結することが重要になります。それで敢えて、クライアントがその結果を受け入れる限りにおいて(クライアントの担当者のレベルが低いとさらに品質は低下します)、「コモディティ化」をして、(売上をあげるために)多くのプロジェクトを回転よくこなしてゆく効率を追求する考え方もあります。同様に、時間のかかる報告書作成の業務を受注しないで「データ収集」を行うサプライヤーに徹するというのも経営者からみれば、効率の点ではよいビジネスモデルになる場合もあります。インサイトや品質の追及と、かたや利益の追求との狭間で、「勝てば官軍」のビジネス社会において、良心的なリサーチャーはそのジレンマと格闘する場合もあります。残念ながら、「コモディティ化した調査」の方がある意味、同じ給料をもらえるのであれば楽であると考えるリサーチャーの存在も否定はできません。。。

fujiokat さんのコメント...

いつもコメントありがとうございます。

ビジネスとしての調査に求められる条件という視点、あえて「コモディティ化」する戦略という視点、大変興味深く拝読しました。

全てのプレイヤーが「早く安く」を追求すると疲弊してリサーチの価値が下がるという認識だったのですが、効率と利益を求めるというビジネスとしての視点が欠けていたかもしれません。

良心的なリサーチャーのジレンマ、難しいですが、個人的にはよりよい結果の追求をしばらく続けてみたいと思っています。

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